家の進化は400年周期
地域の家には、その地の気候や住まい文化の伝統に合わせて、さまざまな特徴があります。そして、時代に合わせてゆっくりと家のスタイルも変わります。
日本では、竪穴式、高床式、寝殿造り、書院造り、数奇屋造りと、400年周期で家のスタイルは大きく変わってきました。くしくも権力構造の変遷とも一緒です。
現代は、ちょうどその400年周期の変換点にあるといえます。そして現実に都市集中化による、人の移動とともに、核家族のライフスタイルが生まれることで家も大きく変わりました。
こうした大きな変換点のきっかけにライフスタイルは欠かせませんが、じつは家を建てる技術の変化も大きく関わります。
たとえば古来、建前には大工が事前に手刻みした柱や梁を組み上げていたものが、今では工場で加工されて造られています。こうしたプレカット技術で作られている家は、今では95%に達します。
建具屋さんが作っていた建具も、アルミサッシに変わり、複層ガラスも普通のものとなりました。多くの断熱用建材もでき、隙間風もほとんどなくなりました。
日本の気候は温暖で、寒冷な西欧や北米に比べれば恵まれています。わざわざ西欧の家のように窓を小さくしなくても、大きな窓から四季を取り込んだ理想的な住まいができます。
しかし温暖である一方、日本は雨が多い国です。そのおかげで緑豊かな自然がありますが、その代わりに家の雨仕舞いはどの国よりも入念に考えておく必要があります。こうした防水の技術も、格段の進化してきました。
日本の家の屋根といえば、代表的なものは茅葺きや瓦葺きがあります。それに伝統的なものとして檜皮(ひわだ)葺きや柿(こけら)葺きもありますが、どれも比較的急な屋根勾配でした。銅板などで葺くと少し緩い勾配もできましたが、それほど水仕舞いは難しいことだったのです。そのため2階に取り付ける物干し台は、屋根の上に作られていたものです。
しかし近年になって、バルコニーが家の中に組み込まれるようになったのは、しっかりとした防水処理の技術が進化したからに他なりません。船舶などの製造にも使われるFRP防水や、シートや鋼板による防水の技術革新が進んだのです。
当初は振動や膨張収縮などで防水性の維持が疑問視されていたFRP防水には、面積の上限が定められていましたが、今ではその制限もなくなりました。もともと信頼性が高く、面積の制限もないステンレス鋼板の防水技術が確立されたからこそ、大きなバルコニーがある新しいスタイルの家ができるようになったのです。その技術を応用すれば、屋根の革命ともいえる大きな家のスタイルの変革が生まれます。
日本は森林率が高く、限られた土地は食物を得るための稲田が作られます。その限られた土地を最大に生かす家が技術力の進化によって、雨の多いこの国でも可能になりました。これまでの400年周期の家の進化と重ねて、日本に新しいスタイルの家が生まれようとしているのです。
プラスαの土地
日本の家の中でも、陸(ろく)屋根が広まっている地域は、北海道と沖縄です。
沖縄は決して雨の少ない地域ではありませんが、戦禍とアメリカ統治を受けて、鉄筋コンクリート造の家が普及することで陸屋根の家が増えました。
北海道は都市型の中で、家の周りに雪を落とさない無落雪屋根として陸屋根が広まっています。やはり防水技術が進化したからこそ、無落雪屋根ができるようになりました。これによって建物周辺の土地を生かすこともできます。
もちろんその技術は、木造住宅でも活用できます。今では、日本のどの地域でも、陸屋根スタイルの住宅を建てることができるようになりました。特にモダンなデザイン住宅には陸屋根の技術はとても有用です。
しかも思っている以上に、意外とコストがかかるものでもありません。屋根を作る費用としては、1坪あたりで10万円以下のコストで実現できます。屋根材をいぶし瓦などの和瓦で葺くことと比べても、コスト的にはそれほど変わりません。
また陸屋根といっても、水が流れるほどの勾配は必要です。2%ほどの勾配を作ります。5mの距離で10cmの差ができるような傾きです。もちろん日常的に普通に歩いて、屋上として使うことができます。
それは家の上に、新しい土地を手に入れたことと同じことです。そのように考えると、とても単純な損得勘定ができるようになります。
土地の価格が10万円以上する地域であれば、屋上利用ができる陸屋根は、新しい利用価値のある土地を安く手に入れたのと一緒です。
その土地が日当たりや景観が良ければ、さらに価値が上がります。空に近い屋上なら、その可能性も高くなるでしょう。ただ、屋上という土地が手に入っても、上手に使わなければ無駄になります。
アウトリビング
”出居”という言葉を、聞いたことがありますでしょうか。
「でぃ」とか「でぇ」と呼ばれ、「座敷」とか「客間」を表す言葉です。地域によっては、”四(よ)つでぇ”といえば、大黒柱を中心にして田の字型に座敷が作られた家を指すこともあります。
現代では、基本的には室内の座敷を指す言葉ですが、「出居」という文字は、”アウトリビング”と訳したくなります。現実に寝殿造りの廊下や庇の合間に作られたり、庭上に設けられた臨時の間を指すことから生まれた言葉です。その意味では、”アウトリビング“と訳すのも、まったく間違いでもありません。
中国の庭園でも日本庭園でも、庭先に船を浮かべ、音楽を奏でながら過ごすのは至上の遊びでした。アウトリビングというと新しいライフスタイルのように感じるかもしれませんが、逆に最も基本的な暮らしの楽しみ方なのではないでしょうか。
もちろん、普通に広めの庭を手に入れれば、アウトリビングを楽しむことはできます。しかし、もし土地が狭くても、屋上が利用できれば諦めることはありません。もしくは、土地が広くてもコストを考えれば、さらに屋上にプラスαの、アウトリビングを考えることもできます。
最近では、よりハッピーな人生を再スタートさせるという意味で、”リトリート”という言葉が使われることがあります。”リトリート”とは、隠れ家とか隠居所という意味を表しますが、できれば日常生活などから、一度切り離した空間や時間で、新しい感覚を養い、より前向きな気持ちに切り替えようとするものです。
家の屋根の上に生まれた屋上という空間は、風の吹き方も、日の当たり方も違い、そしてその屋上からの眺めも一新されます。普通の庭にはない、まさにリトリート感がいっぱいの空間が屋上です。
そのように考えると、屋上はもっとアクティブに使うことを考える方が良さそうです。ただのプラスαの空間として、屋上があれば、物干し場とか便利に使えそうだと考えるだけではもったいないのではないでしょうか。
屋上がつくる快適さ
たとえば、菜園を考えるのであれば、屋上は独立しています。鳥や虫以外の野良犬や野良猫が、入り込み汚物を残す心配もありません。日光を最大限に利用できることはもちろんですが、菜園として活用する時には、レイズドベッドを利用すると、通風を生かした土の環境を作ることができます。
さらに、屋上緑化を考えることもできます。植物で緑化された表面は、コンクリートやアスファルトなどに比べて温度が上がりません。断熱性が向上されるというよりも、この温度差によって熱は伝わりにくくなります。屋上緑化のおかげで、じつは家の室内環境まで快適さが確保できるのです。
この緑化を維持するための自動給水装置なども進化し普及してきました。手間をかけなくても、快適な空間を維持することができます。
この緑化された空間に身を横たえれば、目に飛び込むのは大きな空です。家を建てたら、”おそら”も同時に手に入る。そんな新しいスタイルの家を考えてみてはいかがでしょうか。