ウィリアム・テンプル鄕は、イギリス大使としてオランダのハーグに駐在した経験をもとに、一冊の本を書きました。オランダの人々と気質についてまとめたものです。オランダ人が家族を大切にして暮らしているということが目に留まったのです。
そのような話を残しているのは、イギリス人のテンプル鄕だけではありません。多くの旅行者がオランダを訪れ、子どもを1人の人間として大切に扱い、家庭生活そのものも子どもを中心に回っていると報告しています。
オランダ人は、子どもと家庭、そして庭の3つを大切にしていることが自分の国では考えら
れないことでした。
え?、そんな普通なことが、どうして話題になるかと不思議に思うかもしれません。
じつは、テンプル鄕がハーグに着任したのは1668年からの3年間であり、17世紀の話です。日本では江戸時代の寛文年間、4代目将軍の徳川家綱の時代です。
さらに100年以上をさかのぼり、15世紀ころからオランダのライフスタイルは、ヨーロッパの中でも特異でした。その時代のフランスでは、子どもは大人になるまでは厄介者で、甘やかすような存在ではなかった時代です。
パリなどの都会では、1戸に20人以上が暮らしているのが普通の時代に、オランダでは平均でも4~5人を超えませんでした。それを考えると、夫婦と子どもが中心の核家族のライフスタイルというのは、オランダから始まったと考えて良いのです。
日本で本格的に核家族化が進むのは、終戦後の高度成長期以降です。集団就職で地方から都会に出てきた人たちが、自分の家を持つようになって初めて、核家族の家が生まれました。こうした文化が、住まいのカタチに大きな影響を及ぼしています。
