2018年4月2日月曜日

「家をつくる」ということ

家をつくるのはだれ?


家族のことを何よりも一番心配しているのは、母親であると答える人が多いのではないでしょうか。もちろん、父親も決して家族のことを忘れてはいません。幸せな家族の姿を思い浮かべるからこそ、これまでに稼いできた貯金を使い、さらにはローンを抱える決断をします。


ところで1980年7月に掲載されたアメリカの広告で話題になったものがあります。「世界で一番クリエイティブな仕事とは」という意見広告です。「全米を動かした75のメッセージ」という新聞への意見広告プロモーションの一環でした。まずは一度、下の原稿に目を通して見てください。




この広告では、「HOME MAKER」とは主婦のことを指しています。主婦の数々の仕事は、家事という一言ですむものではなく、ここに書かれているほど奥深い内容の仕事を手掛けます。まさに「家をつくる人」です。


今の時代なら、男女差別という人もいるかも知れません。でも、家では誰かが、これだけの仕事をしなければなりません。新築でもリフォームでも、家をつくるということは、ここにあるすべての項目を調べ、勉強を必要としているものなのです。


家族療法


家族の間で「家」について話すことが、使われている現場もあります。それは、臨床心理学の「家族療法」です。


アメリカでは約20数年前から、不登校や家庭内暴力などの子どもたちへのカウンセリングが行われてきました。


1970年代のアメリカは、今の日本と似たように個人主義の風潮が高まり、離婚率が増加し、家庭崩壊が社会問題となっていた時代です。


そのしわ寄せは、結果的に子どもに表れることも少なくありません。そのために不登校などの症状をみせる子どもと家族の悩みを解決するカウンセリングが行われるようになります。そのカウンセリングのひとつが「家族療法」です。現代の日本でも、この「家族療法」を実施されている先生がいらっしゃいます。


不登校や家庭内暴力を含めた子どもたちの悩みは、少なくとも原因が子どもだけにはないことの方が普通です。ですからカウンセリングで、子どもと話しても解決できないことがあります。母親と子どもだけが治療に通うのが適切とはいえません。


また、一時的に治ったように見えても、傷口を深くしてしまったり、再発の可能性を残していたりする恐れもあります。


「家族療法」では子どもといっしょに、母親も、もちろん父親も、家族でそろってカウンセリングを受けます。


もしペットを飼っていれば、ペットも連れて一緒にカウンセリングを受けます。ペットはもちろん人の言葉を話せませんが、ペットに対する家族それぞれの態度で、いろいろな側面や、問題点が見えてくることがあるのです。


子どもが自分以上に親がペットを大事にしているように感じたり、逆に自分がかわいがっているペットに虐待があれば、自分がその仕打ちをうけているように感じることで症状が出てくることもあります。こうした家族間の関係を大切にして治療に当たります。


マドリが聴診器になる


この「家族療法」の手法のひとつに、今の家の間取りを簡単に描き、日常的な生活のシーンを語り合うことを行ないます。家族それぞれが間取り図の中に、自分と家族のよくいる場所、あるいは自然と決められていると思われる場所にマークをします。できれば、ここでペットの居場所も書き入れます。


この作業をするのはカウンセリングを受ける子どもだけではありません。当然、一緒に来ている家族全員が行ないます。


その居場所をあらわすマークには、鼻がついていて、家族それぞれの顔ががどちらの方向を向いているかということをわかるようにします。


たとえば、子どもが父親から目を向けられていないと感じているというようなことが、この絵の中でわかるのです。そして家族の関係を互いに話しあうことで、それぞれの関係を確認することができるようになります。


なかなか自分自身のことでも、家族に対しての感情を表現することは難しいことです。また、自分は普通に平等につき合っていると思っていても、マークしてみると始めて、自分の中の微妙な気持を知らされることもあります。


家族の関係は、気づかないうちにつねに子どもたちの心の中に影響を及ぼしています。また子どもと両親との直接的な関係よりも、大人同士の関係が、子どもに大きな影響を及ぼすこともあります。


普通に暮らしていれば、間取り図など縁のないものと思っていませんか。でもカウンセリングとしての使い方一つで、家族の関係を診断し改善するためのツールになるのです。実際に診断に当たる医師からみれば、住んでいる家の間取り図は、まるで聴診器のようなものなのです。


家族の未来を語り合うこと


もうひとつ、家族で「おうち」の話しをすることで、大切な家族関係を築くツールがあります。


それは、家族みんなで協力しながら理想の「おうち」を粘土細工で造ってみることです。触っているだけで家族みんなが、優しい気持ちになるようにと、軽くて柔らかい紙粘土まで用意している専門医もいます。


この作業の中では、今ある家の姿ではなく、新しい家を家族で話し合って造り上げます。


もしかしたら家族で陣取り合戦のようになるかも知れません。でも、粘土であれば自由に増築してゆくことも簡単です。ワイワイガヤガヤと騒ぎながら進めてゆきます。


この一体の作業の中で、家族それぞれの夢が自然と語られ、家族に共有されるきっかけになります。そして家族の団結力が高められるのです。


こうして「家のかたち」を話し合ってみることで、家族間の気持ちを確認ができます。「家族療法」のこうした作業の中で、子どもの悩みを解決する療法としての効果が発揮されるのです。「家のかたち」は、まるでそのまま家族の状況を表
すことになるのです。


たとえ柔らかい優しい粘土がなくても、家族の間で「おうち」の使い方について話し合うことは、家族にとって大事なことです。それは新築の家を建てれば終わる話しではなく、リフォームを繰り返すことも、家族でしっかり話し合えば、いわばカウンセリングを受けていることと似ています。


もっと「おうちのはなし」を


この療法で話し合われる内容は、ほとんどの話しが、今そこにある家庭でのふるまいであると思います。間違いなく、家族が暮らしている「おうち」の中でのできごとです。


家族が「おうち」の中で行われていること、新しい「おうち」のことを話し合うことが、悩んでいる子どもたちのカウンセリングになっているのです。


もちろん療法は他にもあると思われます。でも、時々家族で「おうちのはなし」をすることの大切さが、おわかりいただけると思います。


逆にいえば、家というのは常に完成したものではありません。家族の姿も変われば、考え方も変わります。家に住んでいると、そのまま変わらないものと考えてしまいますが、それではもったいないことです。できれば意識をして、家を変えることを、家族で話してみることも、良さそうです。


結婚をし、子どもが産まれ、学校に入り、そして育ち、数々の卒業を迎え、いずれ巣立って行くそれぞれのシーンに、夫婦の考え方もあります。おそらく「おうちのはなし」は尽きることも無いでしょう。その都度に、最善の「かたち」を話し合うことこそが大切なのです。


今の家についてでも、また新しい家についてでも、家族の間でいつも「おうちのはなし」を続けてください。幸せな家族をつくる大事なコツのひとつです。