スケルトンとインフィル
この見出しの言葉を、どこかで聞いたことがありますか。建築の世界では比較的使われますが、決して一般的な言葉とはいえません。
少し前、スケルトンデザインとして外装が透明なパソコンが発売されて、よく聞く時期もありました。ただ、和製英語で、本来であればシースルーが正しい表現ということです。また、スケルトン見本といえば、骨格見本のことで学校には必ずあったものです。
さらにわかりにくいのはインフィルという聞きなれない言葉です。スケルトンとは対の言葉として使われているので、骨格以外は、すべてインフィルと考えます。家であれば、設備部品や内装材、さらには生活のために揃えられる家具もインフィルの一部です。
スケルトンがしっかりしていれば、内装や家具を変えながら長期にわたって住み継ぐことができます。持続可能で長持ちをする家を考えるときには、このスケルトンとインフィルを区分して考えることとしています。
さらに一般的には、仕上げや設備機器などの比較的寿命が短いものをインフィルとし、骨格だけではなく構造強度や断熱性などの性能もスケルトンと考えることが多いようです。
マンションで考えるとわかりやすいかもしれません。全面的なリノベーションをして、まったく新しい暮らし方を始めることができます。しかし、外装や窓の位置などを変えることはできません。それは区分所有のルールの中で定められていて、これがスケルトンとインフィルの境界となります。
すべてを所有する戸建住宅では、わかりにくくなります。たとえば、外装の仕上げ材には、タイルなどの長持ちする材料もありますし、耐震補強や省エネ改修など住宅の性能に関わる要素も、インフィルのように変えることができます。
たとえば、古民家が再生改修されるのには、現代生活に合わせた設備機器が設置され、インテリアを変えてリモデリングされるのはもちろんですが、耐震補強と、しっかりとした断熱材を充填して、住環境を整えることも行われます。つまり性能もインフィルになりうるのです。戸建住宅のスケルトンは、本来の意味通り、木材の柱や梁といった骨格そのものを指します。
家は、柱がなければ建ち上がらず、梁がなければ2階の床や屋根が掛からないことは、どなたでも想像ができるこだと思います。主に、次のような部材から成り立っています。
こうした部材が、国産材なのかそれとも海外からの輸入材なのかということが、取り上げられることも多くあります。
住宅のスケルトンの事情をよく知れば、理想的な設計や見積もり価格もわかるようになります。そして、設計事務所や建設会社を選ぶときの目安にもなるのです。
スケルトンの費用
住宅の純粋なスケルトンが、骨格である柱や梁などの木材であるとしたら、はたしてどれくらいのコストがかかっているものでしょうか。
単純なイメージを聞くと、おおよそ500万円以上と答える人が多いようです。いわば建物の主要部分ですから、そのように考えるのも無理はありません。現実に建設費用の見積書の中ではどうなのでしょうか。
公正で中立な調査活動と情報提供を行なっている(財)経済調査会のホームページの中に、建設費用の事例が掲載されています。事例はいくつかありますが、これらの公開されている見積書の中でも、木工事は30%ほどで、まんざら間違いでもありません。
ただし、そのうちの組み立てや加工する労務費が半分を占め、純粋なスケルトンにかけられている費用は、事例から換算すると1坪あたり35,000~38,000円ほどです。つまり1棟の家でも、100~150万円ほどとなります。
こうしたスケルトンに使われる木材の価格は、国産材や無節や乾燥率などによって、大きな違いがあります。しかし施主が指定をしない限りは、建設会社に任されていることがほとんどです。高級住宅を建てたからといって、じつはスケルトンの費用は大きく変わるものでもありません。
大手メーカーの木造住宅では、供給を安定させるために、世界的に流通しているホワイトウッドなどの外材を使うことが多くなります。これらの材は比較的安価な材である上、さらに大量に買いつけることでコストを下げています。円高も木材の原価を下げることになっているはずです。
そのように考えると、本来はもっとも資産価値として残されるべきスケルトンですが、安価な材に高い費用を払っていることになりかねません。大手メーカーであればなおさら、しっかり聞いておきたいものです。
そして、木材の種類やグレードを聞けば、見積書を深く理解ができるようになります。きっと建設会社の選び方のポイントになるはずです。もし近隣に、建設現場を見かけたら、ちょっとスケルトンもゆっくり見てください。多くのスケルトンは、完成すれば見ることができなくなってしまいます。白くてきれいに見える木が、決して良いとは限りません。
古民家再生
また、意外と近くに見学できる古民家も、たくさん残されています。見比べてみると、住宅のスケルトンがずいぶん変わってきたことに気づかされると思います。
なによりも古民家では、家のスケルトンがそのまま見れます。古民家の柱や梁には、とても大きな木材が使われてきました。今の時代にこれだけの材を揃えようと思えば、相当の費用をかけなければなりません。再建築の費用を考え
れば、古民家には本当に大きな価値があります。
だからこそ古民家再生を願う人もいて、生まれ変わっている古民家も多くあります。
間面記法でできた家
古民家のスケルトンは、じつは設計の面でとても優れたものでした。
日本の伝統的な民家には、建設の際に単純なルールがありました。それは今の私たちが、「○LDKの家」と表現しているようなものです。昔の民家は、「○ 間(けん)○ (面めん)の家」という風に表現されていました。こうした表し方を「間面記法(けんめんきほう)」といいます。 「間」とは長さを表すものではなく、柱はしらま間の数を表します。
昔の民家は、煩雑な技術を避け、極めて単純な構造ででき上がっています。屋根をかけるためには、棟木を中心として両側に2本の柱を立て、棟柱との間にできた2つの柱間で空間を作ります。これが母おもや屋となります。
そして棟木を伸ばすようにしていくつかの柱間を並べることで、家の大きさが決まります。
柱間2つは小さな家で、柱間が4つも5つもあると豪邸となります。有名な三十三間堂は、この柱間の数が33ある御堂という意味です。
さらに間面記法の「面」とは、庇の出ている数を表します。昔の家の縁側のように、母屋に付属した空間ができます。母屋は単純な四角で建てられているので、「面」は最大、東西南北の4面までしか作ることができません。
前述の三十三間堂は、じつは外観から柱間を数えると35あります。それは両端の柱間は、「面」として作られているからです。つまり、間面記法で表せば、三十三間堂は、33間4面の建物となります。
このような間面記法で建てられた家は、平面図で見ると、碁盤の目のように柱が整列して建てられています。建てる時には、梁の長さなどが統一できるという合理性があることはもちろんですが、こうした単純なスケルトンだからこそ、世紀を超えたリノベーションも可能になります。デザインをリモデリングすることはもちろん、耐震性や高性能の家に生まれ変わることができるのです。間面記法で建てられた古民家は、理想的なスケルトンの見本です。
このようなスケルトンの見方ができるようになると、設計の良し悪しが判断できるようになります。柱や、特に梁の配置が複雑で無理があるほど、コストもかかり、リノベーションしにくい家になります。
スケルトンに資産価値を
家の骨格である柱や梁に使われている木材は、本当に数十年で価値のなくなるものになってしまうのでしょうか。
これまでにも記してきた通りインフィルの代表である仕上げ材や設備機器などは、年数を経るごとに損傷や故障が増え価値が低下してきます。だからこそ、メンテナンスに加えて、時には入れ替えも必要です。
また、住宅の性能に関わる部品も、性能が劣化するものもあれば、時には性能の基準そのものが変わる可能性もあります。たとえば断熱や遮熱の塗料が生まれてくるように、技術が進化することでも性能は変わります。
しかし、スケルトンに使われている木材は、基本的には100年以上の耐久性があると考えられています。現実に千年を超えた木造建築が残されています。
そればかりか、違法伐採や地球環境の保全などを考えれば、将来には木材は資源として貴重なものとなる可能性の方が高いといえます。木材が不足してくれば、さらに木造住宅を新築することは難しくなるかもしれません。スケルトンは、家の資産価値そのものとして考えられるようになるのではないでしょうか。
住まいづくりには、ほんとうにさまざまな情報があります。住み心地や使い勝手など、気になることも多いと思いますが、住宅のスケルトンも大切なポイントです。住まいづくりにお役立ていただければと思います。