屋根と壁と窓
世界中のどの街の風景を見ても、なんとなく風景に馴染んだ家々があることに、落ち着きを感じます。そして同時に、その街それぞれの個性を感じます。
こうした家々の風景の印象を、私たちはどこで感じているのでしょうか。それぞれの家の形状と色と素材の差であると思われます。
家の屋根と壁は、家を人が暮らす器にするために不可欠なものです。そして、街によって、さまざまな形状の屋根があり、茅葺や板葺き石葺屋根は世界中にあります。また、その地域でつくられた瓦こそ、地域の個性を引き立てる要素になっています。
壁には形状の違いこそ見えませんが、素材と色によって、街の個性を感じられます。
そして忘れてはならない大きな要素のひとつが、窓です。場合によっては、窓の大きさや形状、開き勝手で、おおよその地域がイメージできます。窓は家を構成する、最も大切なものなのです。
窓が笑っている家
家の価値を判断するのにも、じつは窓は大事なポイントになります。それを象徴する言葉が、北米の人たちが既存住宅を選ぶ時に、語られています。
良い家は、『窓が笑っている』というものです。
既存住宅を購入して、手入れをして価値を高め、資産形成をする北米のライフスタイルから生まれてきた格言と思われます。良い家を選ぶのには、なによりも窓を見れば判断ができるということです。
屋根や壁は、多少傷んでいても、自分たちの手で補修するのは比較的容易にできます。しかし傷んでいる窓を補修したり取り替えるのは、簡単なことではありません。窓枠に手を加えれば、躯体や水仕舞いにまで影響が及びます。しっかりとした窓がある家であれば、間違いなく立派な家に生まれ変わってくれます。
『良い馬を見極めるのには、歯を見ればわかる』といわれるのと同じ感覚で、良い家を見極めるのに窓を見て確認しているのです。
また、窓が笑っている家には、幸せな家庭が築かれているというイメージもあります。
窓辺をしっかりウィンドウトリートメントで飾りつけ、大切に家を扱っている家族が住んでいる家のイメージがあります。窓に装飾的なバルーンシェードが掛けられていれば、シェード下部のふくらみが、人が微笑んでいる口元の曲線とイメージが重なります。
外から窓を眺めれば、まさに窓が笑っているように見えるのです。
それは窓が、インテリアデザインとしての大事な要素であると同時に、エクステリアのデザインとしても大きな影響を与えているという意味でもあります。
重ねて、家を考える上では、窓は最も大切な部位の1つなのです。
窓の性能とデザイン
あらためて、家にとって窓がどれだけ大事な要素であるかを考えてみましょう。
家の価値を考えるときには、性能と機能とデザインの3つの要素があります。窓は、このすべての要素で大きく関わっています。
そもそも家を強固なシェルターとして考えるのであれば、堅牢な壁を立てて、通風や採光を必要とはしません。快適さに通じる通風や採光という機能を求めるからこそ、窓を設置しようとします。
その反面、窓があることによって熱は出入りをし、冬は寒く、夏は暑い家になってしまいます。壁の断熱性能を高めるのは比較的容易であり、結果的には家の性能は、窓の性能によって左右されることになります。
さらに窓は、家の外観にも、大きな影響を与えています。私たちが家のデザインの様式を判断するのに、窓は屋根と同じくらい大事な要素です。
たとえば、小窓が対照的(シンメトリー)に並ぶと洋風に感じます。その窓脇に開きの雨戸があるなど、少し装飾されているとなおさらです。逆に、大きな掃き出し窓があると和風の家になります。縁側があれば決定的な和風デザインです。
これらが組み合わさって、たとえば洋瓦の屋根に掃き出し窓が設置されれば、オリエンタルな洋風の様式となり、逆に和瓦に小窓が設置されると、大陸系アジア、つまり中華風のイメージが濃くなります。モダンな家には、ガラス面を大きくするか、あるいは逆に壁面を大きくするなど、やはり窓によってデザインできます。
さらに、窓が壁よりも凹んでいると、歴史的な家の雰囲気が醸し出され、壁から少しだけ窓枠が凸に収められていると、現代の標準的な量産住宅のデザインに感じます。
窓と住宅デザイン
これだけ住宅の外観デザインに影響を与える窓です。家を設計するときには、押さえておきたい大事なポイントがあります。まずは、なによりも、窓の設計は内からだけではなく、外からも同時に考えておくことです。
窓は部屋の快適性やインテリアにも、大きく影響を及ぼします。通風や日当たりも、窓の開け方次第で、部屋の環境も変わってます。しかし、内側からの窓を考えた家は、窓の配置や大きさがバラバラになってしまい、外観は決して良いものにはなりません。
そのような事例で多いのは、外観の窓を見ると、洗面所やトイレ、浴室などの配置がすぐにわかってしまうことです。夕方などに電気のつき方を見れば、どのような生活をしているのかもばれてしまいます。
その点、洋風の家では規則正しく同じような窓が並んでいて、家の中の間取りや生活はわかりにくくなっています。ですから、窓の設計は内からだけではなく、しっかりと立面図でも検討しておくのが良いでしょう。
さらに、2階建以上であれば、上下階の窓の位置を揃えることが、外観を崩さないためのポイントです。外観の窓の配置が良い家は、上下階の柱の位置も揃っているので、構造の性能も確保されることになります。このようなポイントをチェックするだけでも、設計者のデザイン力を測ることができます。
同じ2000万円の家でも、外観デザインによって、良ければ3000万円にも見え、悪ければ1500万円にも見えます。その差は2倍以上にもなりかねません。どうせ外観は道路側しか見えないからと諦めずに、デザインは大事にしておきたいものです。
窓と性能
家には窓があることで、景色が見え、光が届き、風が抜けるという快適さを得られます。しかし、建物の窓というのは、考えようによっては壁に開いた大きな穴のようなものです。「窓」という文字の中にも「穴」があります。穴があれば、熱は逃げ、防犯の心配もしなければなりません。
当然のことながら、壁にあいた穴は小さい方が有利ですが、四季の豊かな日本では大きな窓にしたくなるものです。このようなジレンマを解決するには、窓の性能を高めるしかありません。
ところで窓は、簡単にいえば窓枠とガラスという、たった2つの構成要素でできています。特にガラスが発明されることで、光や視線を通しながら、熱の出入りを抑えることができる窓になりました。
窓ガラス
ガラスは、現代になって大きく進化し、種類も増えました。一般的なフロートガラスや破損しても飛び散りにくい網入ガラスから、さらに機能を高めたガラスがあります。高熱処理をして割れにくくなった強化ガラスや、ガラスの間に強くて柔軟性のあるフィルムを圧着させた合わせガラスがあります。この中間フィルムを、より厚く強靭にすると防犯ガラスになります。
また、ガラス面に特殊な金属膜をコーティングして、熱の放射を起こしにくく遮熱性を発揮したLow-Eガラスもあります。
その上、これらのガラスを、間に中空層を持たせて合わせることで複層ガラスができます。しかもさまざまな機能ガラスを組み合わせると、窓の性能はさらに高まります。
たとえば遮熱性の高いLow-Eガラスを、室内側に使うと、暖房の熱を逃しにくく断熱性・保温性を発揮し、太陽の熱を取り入れる、高断熱複層窓となります。寒さが厳しい地域に向いた窓です。
同じ組み合わせでも、Low-Eガラスを室外側に使うと、夏は日差しを遮り、冬には暖房熱を反射して逃がさない、遮熱複層窓となります。西日のあたる窓などに適しています。もちろん、合わせガラスや強化ガラスと組み合わせることもできます。
今では、さらにその上をいく、中空層を2層にした3層ガラスもあります。
窓枠
どんなにガラスが進化しても、そのガラスをはめ込むための窓枠がなければ、窓はできません。窓の性能には、窓枠も関係があります。
昔からの木の窓であれば、比較的熱は伝わりにくいのですが、隙間風を抑える気密性に問題があります。
一方、一般的に使われているアルミは、とても熱が伝わりやすい材料です。せっかくガラス面で熱を遮断しても、窓枠が熱を通すとエネルギーロスだけではなく、結露の問題も発生します。
この窓枠の技術も、大きく進んできました。窓枠の材料としては、木材とアルミに加えて、樹脂の窓枠が一般的になりつつあります。樹脂は熱を伝えにくいので、窓枠にするのは最適です。そして、これらの窓枠の材料も、室外側と室内側で組み合わせることができます。
たとえば、雨風や太陽の紫外線にさらされる室外側にアルミを使い、室内側には断熱性の高い樹脂を使うというような例です。
窓を選ぶ
もちろんこうした窓のほとんどは、信頼のある住設メーカーが作っているものです。その意味では、建てる家の品質は大手メーカーでも地域の建設会社でも変わりません。
また、既存住宅でも、古い窓枠の一部を利用しながら、高性能ガラスを入れた障子を、リフォームで入れ替えるだけでも、家の性能が向上することができます。
しっかりと窓のことを知っておくと、家づくりも変わります。そして快適な家の中で、家族が笑う家になることでしょう。